【新連載:革製品の歴史】その6「筥迫」は江戸時代の女性たちの化粧ポーチ?<嚢物考古集より>

革のまめ知識

みなさんこんにちは、KAWANOWAです。

カバンやバッグなど革製品の歴史をひもとく連載、第6回目です。前回はこちら

革製品の歴史の第3回に登場した「筥迫(はこせこ)」。今回は改めてこちらのアイテムをクローズアップします。

まさにフォルムはハコ型をしており、半かぶせを開けると、懐紙や鏡、紅筆など女性には欠かせないアイテムがしのばせてあります。

もとは武家の女性たちが鏡や紅筆等を入れる懐中物として流行しましたが、持ち主の地位を示すアクセサリーでもあったとか。

のちに女性の正装の際には欠かせないものとなり、羅紗(らしゃ)や金襴(きんらん)などの素材を使ったり、立体的で華やかな刺繍を施したものが増えました。

特に格差の激しい吉原の花魁たちにとっては、自分たちの階級を知らしめすためには欠かせないアイテムに。

美貌だけでなく芸事や教養にも通じていた彼女たちは、より豪華なアクセサリーとしての「筥迫」を胸元にしのばせて、街を闊歩していたのかもしれません。

こちらは江戸末期の「浅葱ビロード地梅花文縫筥迫(あさぎびろーどじばいかもんぬいはこせこ)」という名前がついた、たいそう立派な一品です。

100年以上の時が経っても、金の糸で彩られた立体的な梅花の刺繍とビロード地が鮮やかです。金×ターコイズブルーという組み合わせは、今の時代でなお新鮮に映ります。

どんなお嬢様が持っていたものなのか、想像もふくらみます。

上から見ると、折りたたまれた懐紙がきれいに収まり、組み紐で口元を絞ってあります。細かな化粧筆や紅などをしのばせて、まるで現代の化粧ポーチのような存在です。

使い勝手の機能性よりも、この筥迫は外側のラグジュアリー感や豪華さが重要。この筥迫を作る職人たちの腕が、いまの革小物づくりにも続いていると言っても過言ではありません。

いつの時代も女性たちは、まるでブランド品を持つように、キラキラしたアイテムに憧れていたようですね。

次回をお楽しみに。