「“良い革製品”てなんだろう?」に答えて頂きました その1 答えるひと:株式会社コロンブス 市川貴男さん

革のまめ知識

KAWANOWAで扱っている革製品。
それらは国内の職人さんたちが丁寧に作り上げ、企業それぞれに匠の技がぎっしりと詰まっています。革好きな方であれば「これはいい革だな」とわかるかもしれませんが、革もの初心者の方にとっては見分けるのは至難の業。

そこで今回は、国内でレザーケア商品のトップシェアを誇る株式会社コロンブスの市川貴男さん(レザーケアのページにもご登壇)に、“いい革の見分け方”を教えて頂きました。

様々なケア用品を作るために、多方面からあらゆる革の知識を仕入れ、どうすればキレイになるかを徹底して学んでこられた、業界でも稀な“革のきわめびと”。
革の初心者目線で質問を投げかけてみました。

Q.そもそも「革」と「合皮」はなにが違うんですか?

革の歴史はとても古く、人類が狩りを始めた時代からあったと言われています。たとえば90年代には、アルプスの氷河の中から革製品を身に着けた、5,300年前の男性(アイスマン)が発見されました。

ヨーロッパの青銅器時代にも立派に革が製造されていたんですね。彼らは仕留めてきた動物の肉を食べたあとに残る“皮膚”を無駄なく利用するために、植物の渋や灰などでなめして“革”として活用していました。
「皮」と「革」は読み方は同じでも、なめす前と後で漢字も変わるのです。ちなみに「皮」は英語だと「SKIN」、「革」だと「LEATHER」です。

合皮が生まれたのは、歴史ある革に比べると新しく、工業生産が可能になった近代になってからです。 合皮の種類には「合成皮革」と「人工皮革」の2つがあり、リーズナブルで市場に出回っているのは「合成皮革」。ベースの生地にPVC(ポリ塩化ビニール)やPU(ポリウレタン)を貼ったもので、見た目や触感を天然皮革に近づけたものです。人工皮革は「エクセーヌ」や「クラリーノ」と言われるもので、モノによっては革より高いものもあります。

一見すると革も合皮も変わらないと思われがちですが、本物の革には「経年変化」という特徴があります。

ケアを続ければ最適な油分と水分を含んで、柔らかく味わいが出てきます。
ところが合皮の場合、ポリウレタンが「加水分解」してしまうことから、およそ2年ほどで表面が変質して割れたりしてきます。久しぶりに押入れからバッグやスニーカーを出したらボロボロだったということはありませんか? それが加水分解です。

本革はきちんとお手入れをすれば、一生ものとも言われます。もとは生きものだったので、触るとほのかに暖かさも感じられるでしょう。親から譲り受けたりする人も少なくないので、革ものは“人生に寄り添う品”と言ってもいいのかもしれません。

もちろんシーズンごとに、トレンドの合皮のバッグを買い替えて楽しむという方もいますので、どちらが良いとは一概には言えませんが、人生の相棒として革ものを嗜むことも、大人のライフスタイルかもしれませんね。

Q.よく「なめし」と言いますが、どんなことなんですか?

「タイコ」と呼ばれる機械。この中に革を入れてなめします。

「なめし」は「鞣し」と書きます。まさに「革」を「柔らかく」すること。

動物から取った後の「皮」は、そのままでは生ものですので腐敗するため、「鞣し工程」を加えなくてはなりません。(鞣しを行う工場を「タンナー」と言います) とはいえ、「鞣し」をするのは実に手間のかかる作業なのです。

動物から取った「皮」についている余分な肉や脂を取り除いてから、石灰に漬けたり鞣し剤を使ったりして、皮の主成分である「コラーゲン」構造に働きかけ、しっかりとした「革」に仕上げていきます。そうすると、乾燥しても収縮することなく、耐熱性や耐薬品性、柔軟性などの特徴が出てきます。

なめされた革がスプレーガンで色を吹き付けられていく様子。

その際によく聞くのが「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」の2種類です。聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。

Q.名前くらいは知っています。具体的には、タンニン鞣しとクロム鞣しの違いって何ですか?

一言でいえば、「じっくり、しっかり、希少性」がタンニンで、「早い、柔らかい、大量生産」がクロムと言えます。ではそれぞれを見ていきましょう。

1.「タンニン鞣し」

タンニンとは植物の“渋”のことで、樹液などから抽出したタンニンを主成分とするなめし剤を使います。これは古代エジプト時代から行われている、最も古いなめし方法です。国内で代表的なのが「栃木レザー」で、濃度の異なるなめし液を別々の槽(ピット)に分けて用意し、段階的に漬け込んでいく方法を取ります。広大な場所も必要なのがこのなめし方なんです。タンニンなめしの特徴を挙げてみると。

  • なめしには数ヶ月を要し、手間と時間がかかる
  • クロムなめし(下記参照)に比べて、伸びや弾力性が少ない
  • タンニンなめし独特の色の変化から、経年変化を楽しめる
  • 染色や仕上げも施されないプレーンなものを「ヌメ革」と呼ぶ

2.「クロム鞣し」

クロムとは「塩基性硫酸クロム」を鞣し剤に使った鞣し方のこと。これは19世紀に発明された比較的新しい技術です。
ただ“クロム”という名前だけあって「人体に有害なのでは?」と思いがちですが、それは「六価クロム」のこと。こちらは「三価クロム」なので害はなく、むしろ人体の必須元素とも言われます。特徴を挙げてみると。

  • なめしが短時間で済み、大量に生産できる
  • 現在は革製品全体の85%がクロムベースで製造されている
  • 特に柔軟性にすぐれている。また耐熱性、染色性がよい
  • なめした直後の革は、このクロムの影響で淡いブルーをしていることから「ウエットブルー」と呼ばれる

 

①と②のいいところを合わせてなめしたものは、「コンビネーションなめし」と言われます。最近では、新しい革の質感を求めるお客様が増えてきたので、なめし方も様々な工夫がなされるようになりました。

まず第1回目の、市川さんへの「“良い革製品”てなんだろう?」コーナーはここまで。聞けば聞くほど、いろいろな革の知識が出てきて、話が尽きませんでした。今度はどんな“革への旅”をご一緒できるでしょうか。

 

◆協力 株式会社コロンブス 企画室 市川貴男さん、小高公次さん
東京都台東区寿4-16-7 03-3844-7111
http://www.columbus.co.jp/

 

KAWANOWAは、「革とオトナのいい関係」を作っていくサイトです。
革についての、知られざる知識あれこれをこれからもお伝えしていきます。
また次回の「良い革製品てなんだろう?その2」のコーナーをお楽しみに。