「KAWANOWA」な人たち Vol.13後編 オイカワプロダクツ 代表取締役 及川 貴史氏 ロングインタビュー「仙台の地で、東北らしい革工房を目指す!」 KAWANOWAな人たち 2018年10月1日 by kawanowa 前編では及川さんが職人になったきっかけから、震災を乗り越えて、新ブランドを立ち上げるまでをご紹介しました。後編は及川さんのこだわりや、若い世代への思いについて教えて頂きました。 金具へのこだわり なんでも自分でやってみる、がモットーの及川さん。 革製品には欠かせない金具にもこだわり、工房の中には自身で作るための小さな炉まであります。金具作りと一口で言っても、鋳造やプレス、削り出しなど様々な手法があります。 削りだしで作られた金具 今では優秀な金具屋さんとつながりを持てたので、自分で作ることは少なくなったそうですが、自らやってみたからこそ、どんな作業が難しくて、どのくらい時間がかかるか分かるようになったとのこと。金具屋さんとの交渉でも話がスムーズにでき、信頼関係を築きやすくなったようです。 最近では出会いにも恵まれ、30年以上のキャリアを持つカービング(革に柄を彫刻する手法)の職人ともコラボレーションすることに。制作途中の長財布を見せていただきました。 革を彫刻するカービング ネイティブ・アメリカンの雰囲気を醸し出し、型押しでは出せない凹凸感とクッキリしたラインがこだわりを感じさせます。 自身でもカービングの技術を習得している及川さんですが、 「やはり一つの技術に何十年と向き合ってきた方には敵わない。そういうエキスパートと協業して、本当に一流と呼べる物を提供していきたい」 とカービングレザーを手で撫でながら熱く語ってくれました。 革をもっと若い世代に KAWANOWAでも取り扱っているイタリア製高級革“マレンマ”についてもお聞きしました。素材の表記としては同じ「牛革」でも、実際の革のクオリティはピンキリです。 高級なものはイタリアやドイツの革です。ヨーロッパでは牛の種類がそもそも異なり、革製品に適した、きめ細やかで丈夫な革が作られているそうです。 マレンマを使用したラウンドファスナー長財布 なめしの文化にしてもヨーロッパでは400年の歴史があり、日本ではまだ100年ほど。イタリアやドイツのような発色がどうしても出せなかったり、常に同じ色を出すということも、自然が相手なので難しいようです。そんな中でマレンマの革は、品質もよく、高級感があり、素材としての魅力もある。 「高すぎない価格で提供して、良いものを特に20代30代の若い方に使ってもらって、革を好きになってもらいたい。革がもつ独特の“色気”をぜひ知ってもらいたいです。」 最近では地元の中学生の職業体験も受け入れ、より若い世代に革に対して身近に感じてもらえる機会を増やしているとのこと。 「彼らが将来革職人になるとは思っていませんが、例えばファッションデザイナーになりたいと思っている子に、自分が身につけている物がどんな流れでできているのかを知ってもらうことは、本人の為になると思っています。 特に職業を決めていない子でも、来る前より革を身近に感じてもらえれば、それだけでも嬉しいです。」 「また、革は食肉からの副産物。”命あるものからの恵みを、捨てずに活かす”、それが命をいただく人間の責任だと思っています。」 と及川さん。 革製品技術試験への挑戦 「とにかく好きだからやっている。それだけです。」と謙虚に語る及川さんですが、技術の向上も欠かしません。 「革製品技能試験」という、日本皮革産業連合会が主催する革製品製造技術の認定試験がありますが、及川さんはまだ日本に2,30人程度しかいない「1級」保持者のひとりです。 3級から1級までレベル別になっていますが、中でも1級はとても難しく、10年以上の実務経験を持つ方でも合格率20%以下という難関ぶりだとか。 確かな技術の証ですね! 試験は、知識を問う学科試験と、実際の技術を見る実技試験に分かれています。 実技では、課題である2枚のデザイン画を製作し、それを作って送る事前作品審査。それに合格すると、東京の工房で実際に試験官の前で技術を見せる実技試験があります。(1級の場合) 仕事もしながら勉強をする時間を作るのも大変でしたが、事前作品審査のためのバッグ作りも時間がかかり大変だったとのこと。 しかし晴れて技能試験に合格することで、仕事を受ける時に営業しやすくなったそうです。 東北は革業界が盛んではないので、本当に頼んで大丈夫なのかと心配されるお客様も多かったところ、1級を取ったことでお客様から安心して仕事を任せてもらえるようになったのはメリットの一つでした。 また1級合格者の多くが、30代から40代と比較的及川さんと年が近いこともあり、革業界の衰退が叫ばれる中では頼もしく、よい刺激になったそうです。 東北らしさを生かした製品づくりを 最後に、及川さんの今後のビジョンを語っていただきました。 「東北らしさというのは、せかせかしていないことだと思います。時間をかけてでもこだわる部分はこだわり抜く。そして小ロット多品目で勝負する。 そんな形で自社製品のシェアを広げつつ、東北の革製品制作の“問い合わせ窓口”になっていきたい。浅草とは違ったものづくりをしていけたら嬉しい。」 インタビューを終えて、改めて思いました。 革職人とは、命を頂く革素材や、工業化されない手仕事によるものづくりなど、現代社会が効率化を求める中である意味軽視してきた、しかし人として大切な気持ちが詰まったものに、向き合う職業ではないでしょうか。 及川さんの取り組みにエールを送ります。 ◆オイカワプロダクツ 宮城県仙台市若林区沖野3−9−17 022-353-9068 http://www.o-products.jp/ 文責 ピー・アイ・スクエア株式会社 KAWANOWA 前川弘樹