「KAWANOWA」な人たち Vol.12後編 有限会社アヴェニュー 代表取締役 阿部三千生さん 「素材選びから型紙、製品作りまで一貫して行える実力派メーカー」

KAWANOWAな人たち

 

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独立当時から使われていたという機械も現役
前編はこちら

前回までは「アヴェニュー」の阿部三千生社長が培われてきたハンドバッグづくりのきっかけ、そして営業畑を経験されたことで出会った、貴重な人脈などのお話を伺いました。

さて、早速続きです。

デザイナーの世界観をともに作り上げる

阿部社長は、大手ハンドバッグ卸のある営業マンの方と出会います。

当時ライセンスブランド一辺倒だった時代、モダンなデザインで瞬く間に人気を博した、あるPB(プライベートブランド)のサンプル依頼と製品づくりまでを任されることになりました。

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バックヤードには革がたくさん。ここにあるのはほんの一部。

「それから本当に忙しくなりましたね。いままでのものづくりのやり方ではありえないようなデザインが次から次へとやってきて、『こんなのは無理』、『いや、これじゃないとダメだからぜひお願いします』と毎回押し問答(笑)。

けれど、デザイナーの言う通りに作ってみると、これが見たこともないバランスで素晴らしい出来栄えなんですよね。その時に、自分の今までの発想のなかでものづくりをしていては狭いものしか生まれない。柔軟に考えてみよう、という気持ちが湧いてきたんだと思います」

と阿部社長は語ります。

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手掛けたバッグの数だけ金型もたくさん。

事務所の箱の中にしまわれている、おびただしい数のサンプルを出していただきました。こちらがワァっと叫んでしまうようなユニークなデザインのバッグや、見覚えのある懐かしいヒットデザインも。

丁寧なくるみボタンや、革貼りした口枠など、難しいテクニックばかりが次々と出てくるのも、アヴェニューさんの技術力ならではです。

職人さんとの厚い信頼関係

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手掛けたバッグの設計図もたくさん。この設計図を基に型紙を作成します。

特に阿部社長がお付き合いしている職人さんたちは、40年以上もバッグづくりを手掛ける超ベテラン揃い。特に専属でお願いしている方がほとんどで、お互いの信頼関係が厚いことが伺えます。

「最近よく聞くような、工賃を叩くようなことは決してしたくないんです。しっかりといいものを作って下さい、その代わりちゃんと工賃は払いますから、という安心感が持てる関係性でないと、市場に胸を張って出せる商品を作ってもらえない。」

と語る阿部社長。言葉にはとても重みがありました。

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たくさんの糸が並ぶ棚。

やはりご自身が職人だった経緯があり、その仕事の大変さもすべて知っているからこそ、相手との“阿吽の呼吸”が生まれているのだと感じます。「問屋も職人もデザイナーも“三方よし”」であることを、本当に大切にされていました。

オリジナルブランドへのチャレンジ

二人三脚で多忙を極めてきたハンドバッグづくりでしたが、新しいジャンルへのチャレンジを欠かさない阿部社長は2016年、オリジナルブランド「アヴェニュー・ストーリー」をスタートします。

ご自身でデザインし型紙を起こすことも可能ではあったものの、あえてそれをせず外部に依頼したのには理由がありました。

「ものづくりはしてきたしデザインも手掛けてはきたが、作れば作るほど“これでいいのか?”と疑心暗鬼になっていく。デザインというのは、また別の次元の発想が必要なのではないかと思っていました。だったらプロの方に頼んで“今の空気感”を表現してもらい、自分はものづくりに徹する方が良いと考えました。」

ソフトエナメル(シェブロン加工)被せ付ボストンバック

ソフトエナメル(シェブロン加工)被せ付ボストンバック。鮮やかなブルーの花柄の裏地。

現在依頼しているのは、海外在住経験がありインテリア業界からこちらに転身してきたという、異色のキャリアを持つデザイナーさん。

ディテールに気を配りつつ、更に女性がバッグを開けた時に“気持ちがアガる”ような裏地選びには、気を遣っているとのこと。

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持ち手部分の金具に注目。小さな環っかを仕込んである。

確かに、KAWANOWAでのヒットアイテムである「ソフトエナメル(シェブロン加工)ボストン」は、裏地にはなんとブルーの花柄。ベージュや黒など地味な裏地が多い中で、女性の気持ちがグッと掴まれるポイントとも言えます。

ハンドルの根元には、金具がスムースに動くよう小さな環っかをしのばせるなど、見えないところこそこだわりが感じられます。

ィメンズ2WAY迷彩柄生地バック

ウィメンズ2WAY迷彩柄生地バック。こちらの裏地は実は薄パープル。

ブランド名には、『いくつもの道が人生にはあり。ひとりひとりの道はあなたの物語。あなたとともに。』

というメッセージが込められています。まさに女性に寄り添う“パートナー”のようなバッグとも呼べそうです。

「鶴岡シルクプロジェクト」とのコラボレーション

そして、最近になって阿部社長は「きびそ」という素材にも出逢います。「きびそ」とは蚕が繭を作るときに最初に吐きだす糸のこと。

これまでは固くゴワゴワして製品化には不向きと言われていましたが、紡ぎ方を工夫することで独特の風合いが出るということがわかってきました。

阿部社長が手掛けた「きびそ」を使用した口金バッグ

山形県鶴岡市で「シルクプロジェクト」に携わる方とのご縁で、この「きびそ」を使ったバッグのサンプルを作ってほしいという依頼が舞い込みます。

鶴岡市は明治以降、戊辰戦争に敗れた元庄内藩士らが、桑園の整備や養蚕を推し進めてきた街。現在も、「鶴岡シルクタウン」を掲げ、養蚕にまつわるブランディングや様々なイベントを立ち上げています。

「革とは全く違う素材で最初は戸惑いましたが、なんとかこの素材が生きる方法はないかと試行錯誤しました。イベント会場にも並び、新しい“きびそ”の魅力を伝えることができたのではないかと思います。」

と阿部社長は顔をほころばせました。

新しい素材に対しても、様々な方法を駆使してチャレンジを続ける阿部社長。そして二言目には必ず「周りの人の助けがあったから」と謙虚な姿勢であり続けるところに、アヴェニューさんのもう一つの魅力があるのではないかと感じました。

KAWANOWAでもキラリと光る製品が並んでいます。ぜひ一度見てみてください。

この度はありがとうございました。

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◆有限会社アヴェニュー 「アヴェニュー・ストーリー」
千葉県松戸市下矢切83-7 047-703-5751

文責 CHIEnoWAコミュニケーション 川崎智枝